3+1エリアが必要とするもの
入院生活のすべてに関わるものが,文字通り子どもの生活の範疇に含まれるものであるが,チャイルドライフ・デザインを考える上で,病棟を3つのエリア+1のエリアとして考え,それぞれが担う役割とそれを繋ぐシステム,つまりプリパレーション・システムを考えなければならない.
3つのエリアは,病室,処置室,プレイルーム
+1のエリアは,ope室
病室
小児ベッドが生活するベースとなる.転落防止の柵があるもの,また布団などを足にして飛び越えないように天井部分にカバーを掛けてあるものもある.
柵のあるベッドに入ると,外から見る世界とはまるで異なり,閉塞感と圧迫感に驚く.病人が何故この檻に入れられなければならないか不思議に思うかもしれない.そして憤りに変わるであろう.
これは,想像しただけでは絶対に分からない.
看護,デザイン,医師を目指す人は,まず,この中に入って見るべきである.そこに入れば自ずとやらなければならないことが見えてくる.
ベッドの上で食事をし,診察や処置をされ,痛みに耐える.決められた時間だけ親と触れることができるが家とは違って周りには同じような子どもと親がいる.・・・そのような特異で狭いエリアにデザインは何をなさなければならないか考えなければならない.
複数のベッドからなる部屋は,看護側の都合で並べられているのであって,子どものためではないことをまず理解すべきである.
その上で,病室というエリアを一つの生活システムと考えたとき,ベッドとベッドの関係,ベッドと壁の関係,子どもと看護師,医師の動線(人の動く軌跡),親の面会に適した視線の高さなど,に着目してデザインを考える必要がある.
処置室
痛いことをされる恐怖の部屋であり,痛いことをされるのは自分が悪い子だからだという自責の念を子どもが持つということを大人が理解しなければならない.
デザインが,現状を維持しながら入りこむことは難しくはない.感性デザインとして,床,処置台(ベッド),壁の色の関係を考えることも可能であるし,処置に必要な医療器具,薬などの入れ物や包交車(鑷子[せっし]=ピンセット,広口瓶,ガーゼ缶,剪刀[せんとう]=ハサミなどを乗せたカート)までデザイン対象となりうる.
プレイルーム
楽しみの部屋である.プレイルームへ行ける許可をもらえば治っていると確認することのできる部屋でもある.
季節ごとの行事もお楽しみ会としてあるであろう.
長期に渡る入院患児にとって飽きたつまらない部屋になってはならない.静寂と動きを切り替えることができるデザインを考えなければならない.
退院に伴って置いていかれるおもちゃ類にはない,飽きにくいアイデアが盛り込まれた,楽しめるおもちゃ,あるいはプリパレーションとなりうるツールを考える必要がある.
ope室
チャイルドライフにおいても大人の入院患者にとっても究極のブラックボックスである.ここでのデザインアプローチは,処置室からope室までのシナリオとそれに付随する諸々に対してである.
例えば,ope室まで運ばれるストレッチャーから見る天井を考えてみる.天井の蛍光灯はストレッチャーが押されるスピードで次々と現れて流れていく.そこに人は恐怖を感じるのである.
天井のデザインもさることながら, ストレッチャーを押す側が不要なスピードが出せないデザインが必要なのである.スピードコントロールで恐怖感が制御できるようなデザインを考えなければならない.
ope室内部の状況がどうであるか知っておくことによって気分が落ち着くならプリパレーションのコンテンツの中に含むべきである.Researchで紹介しているように大学病院の看護・医療スタッフの協力によってそれは可能となる.
デザインする側はどうデザインすればよいのか,患者(あえて患児だけとは言わない)を扱う側の医師,看護師はどうすればいいのか,それには患者がope室に向かう気持ちを理解しなければならない.
先ず,デザイン,看護,医師を目指す人は,あるいは既にそうなっている人も,ope室に向かう患者と同じように裸になり,手術着一つでストレッチャーに乗ってみなさい. そうすればストレッチャーの冷たさ,天井を見ながら進む怖さが解り,あなた方は,何をどうすればよいのか自ずと解るのである.
そのことによってデザインだけでは解くことのできない問題を3者によって提起でき,解決できるのである.
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