:: 2005/10/01  09:46 ::

「小児病棟における,他専門分野との取り組みについて -看護師と感性デザイン研究室との連携に関する報告-」

日本看護学会(小児看護) ,口演内容,[2005年9月22日-23日,熊本市民会館]


自治医科大学附属病院:吉川佳孝 / 北里大学病院:内藤茂幸 / 拓殖大学工学部 工業デザイン学科:岡崎 章


PowerPointの内容は,画面をクリックするごとに次のページを見ることができます. PowerPoint左下の○に表示されるページに対応した発表内容が下記文章となります.はじめから見直したい場合は,右クリックで巻き戻し,再度右クリックで再生を選んで下さい.

Ⅰ.はじめに

私たち看護師は,入院患児にとっての医療,あるいは入院生活がより安楽で安心でき,かつ有意義なものとなるよう,日々試行錯誤を繰り返しながら看護活動に従事しています.しかしながら,その中で不合理と思いながらも改善の方向性を見出せないこと(例えば,安全・管理に優先された子どもの入院生活の制限など),あるいは自分たちが行っていることが本当に確かなものなのか疑問に感じることを多く経験することがあります.
今回,北里大学病院幼児・学童病棟と拓殖大学感性デザイン研究室との間で「入院患児のチャイルド・ライフの向上」に向けて行われた意見交換の内容と臨床への導入の経過を振り返り,その要点の整理と,「看護」と医療内外を問わない「他専門分野」との連携の可能性・必要性とそこでの看護師の役割について検討したため報告します.

Ⅱ.期間

平成16年5月~現在

Ⅲ.倫理的配慮

実際に対象に参加協力を得る場合は,感性デザイン研究室との取り組みおよび研究の主旨を入院患児とその家族へ説明し,承諾を得た.

Ⅳ.展開された取り組み

看護師の視点から観た患児の入院生活における改善点と問題点を挙げ,それに対する感性デザイン研究室側の視点からのアドバイス・提案を得ながら,臨床への展開とその妥当性についての意見交換を行いました.そして,次の◎処置室のカラーシステムデザイン,◎ベッド内環境のプロダクトデザイン,◎プリパレーション・ツールの作成,について感性デザインとの連携を図り,取り組んできました.これから,その3事例の取り組みを紹介します.

【処置室について】

患児の処置室への恐怖感に対して,看護者より処置室内の視覚的環境改善について提案を行い,感性デザイン学的視点からアドバイスを受け,写真のように「安心・親しみ」の獲得のため,オレンジ・ピンク等の暖色系カラーで処置室内を構成し,また病気・治療・処置に対し前向きな気持ちとなるような「活動性」の獲得のため,壁・机に青・黄色の医療物品を配置しました.
実際の患児の処置に対する反応に関しては,変更前後での優位差は立証に至ってはいないが,感性工学の学術的に効果が言われている環境の導入を行うことができ,処置室で輸液等の準備を行っている看護スタッフからは,「気持ちが落ち着く」「処置室に親しみがでた」といった意見が聴かれました.

【サークルベッド内の環境について】

入院患児にとってベッド内は限られたライフスペースです.安全を最優先としたサークルベッド内の抑圧ざれた環境とそれによる分離不安の助長により,渧泣・活気の低下等のストレス反応を呈する患児を多く目にし,私たちは,患児の入院生活の質においてのサークルベッド内の環境に対する不合理さを常に感じていました.そこで,サークルベッド内の環境改善の必要性を挙げ,感性デザイン的視点から機能性をベースにおいた,遊び・安楽・ストレスの緩和の要素を含めたクッションのデザインの提案を受け,作成を行っていきました.

そして,写真のような,配色・形・手触りに富んだベッド柵へ取り付けるタイプのクッションを作成しました.

その結果,クッションをベッド柵に取り付けることで,柵の抑圧感は緩和され,座位保持椅子の除去により患児のライフスペースの拡大が行えました.実際に使用した患児の反応は様々で,背もたれとしての使用・叩いたり掴んだり,パズルとして使用する様子が観られました.

また,転倒時のクッションとしてや,脳性麻痺・脳炎の脊髄反射による不随的な筋硬直の際の打撲の予防として,クッションの効果も得られました.

【術前・検査前のプリパレーションについて】

 小児看護におけるプリパレーションが注目され,実施およびその必要性についての研究が盛んに行われています.主に,手術や検査を受ける患児に有効と言われており,絵本や紙芝居を用いた効果が明らかにされています.術前・検査前の患児が抱く不安については周知の通りだと思います.

本事例では,感性デザイン研究室側より,パーソナル・コンピューター(以降,PCと略)を用いたプリパレーション・ツール作成の提案を受け,そのことから,患児の心理的準備に加えて,PCプリパレーション・ツールを患児と共に実際に操作・決定していくことで,「能動的」な医療参加とその結果に伴う自己決定・自己効力感の獲得および,「遊び」や「インフォームド・アセント」の要件を満たした説明の向上の可能性を見出し,作成を行いました.

看護師側としては,各成長過程での一般的な子どもの特性と入院患児へのプリパレーションの必要性について感性デザイン研究室側へ情報提供を行うと共に,前述した,子どもの主体性の要素を含めたプリパレーション・ツール作成についての提案を行いました.また,実際の術前・検査における看護援助の様子や内容を感性デザイン研究室側がイメージできるよう看護師の演技・ムービー作成により伝えていきました.

感性デザイン研究室としては,看護師側から得られた情報を基に,コンテンツデザイン・患児・看護師等のキャラクタデザインおよび,看護師支援・患児参加型のインタフェースデザインの作成を行っていきました.

以上の連携により,次のようなプリパレーション・ツールを作成しました.参照ください.…….
(PowerPintoから切り替えて本HPのToolsに記載している新バージョンのプリパレーション用インタラクティブ情報機器 [Smile]を操作して説明)

こちらは,手術前のオリエンテーションを目的に作成したプリパレーション・ツールです.学会の規定によりアニメーションはお見せできませんが,実際には,キャラクターを動かしたり,実際の手術室の中や点滴挿入等の処置の映像も見ることが可能となっています.手術前の一連の流れを,自分で操作できる患児は操作してもらいながら,できない患児には読み聴かせながら,看護師あるいは両親と一緒に操作していきます.
患児の年齢や好み・希望に合わせてキャラクターの変更することも可能となります.

また,患児の決定を確認し,クリックする項目(たとえば,お母さんと明日までさよならできるかな?といった内容など)も設定されています.

次は,検査についてのプリパレーション・ツールです.ここでは,骨髄穿刺について説明します.一般にいうお医者さんごっこの要素を取り入れて作成しました.キャラクターの服をぬがせたり,実際に検査で使われる道具・物品を動かしたりしながら,処置の一連の流れを説明していく内容となっています.初めて骨髄穿刺をする患児の検査前のプリパレーションや,検査後の患児の頑張りを認めてあげるための体験の振り返りのツールとしても効果的があると考えています.

PCプリパレーション・ツールを用いた効果については,残念ながら,現段階では明らかとなっていません.現在,紙芝居による術前オリエンテーションの効果との比較・分析中を行っています.また,今後は,H19年まで科学研究費基盤(B)として継続し,検証とフィードバックを予定し,効果の検証には,前述した比較・分析に加えて,動作解析システム,アイマークカメラ,リアルタイムログ解析,アンケートの複合評価・分析の検討を行っているところです.

なお,PCプリパレーションを用いることで,内容と効果の評価・改善の向上と今後のPCを用いた幅広い用途の可能性が示唆されています.

Ⅴ.考察

山田らは,看護を科学的な目でとらえ,科学的なものに高めていくための方法として,様々な学問分野の視点や方法論を取り入れながら,現状の看護を進めていくことが必要であると言っている.

今回は経過報告に止まり,その効果についての立証には至っていないが,3事例から,病棟看護師と他専門分野との連携を通し,感性デザイン学という新たな視点から入院患児・入院環境を捉え,アプローチすることができ,また,これまで行えなかった技術・知識を得ることができた.それのことにより,患児へ提供する入院生活や不安・ストレスの緩和への援助の向上および,これまでの看護における知識や援助がより幅のあるものとなりうる示唆が得られたと考える.そのことは,今後,更なる患児・家族のニーズの多様化・高度化が予想される中,対象に対する看護の質を高める手立てとなると考える.
看護師は対象を全人的に捉え,対象のニーズを充足する役割を担っています.医療に止まらず,あらゆる知識・技術あるいは概念が看護の要素の中に含まれうると言える.そのため,対象を取り巻く環境を見つめ,どのような知識・技術が求められているかを考え,他の専門分野の視点を看護援助に取り込むことも,看護の視点のひとつであると言える.
他の専門分野との連携を調整し,看護および医療の質の向上を図ることも専門職としての看護師の役割であると考える.そして,(これまで述べてきた)前述した,他の専門職との連携を「病棟看護師が調整することができる」ということ,また,「その必要性があること」について,本報告により再認識した.

Ⅵ.今後の課題

  • 実際に得られ,導入された専門分野からの視点が患児および看護援助にどのような利点をもたらしたのかの評価・検討を行う必要がある.(なお,プリパレーションに関して,現在,比較・分析中である.)
  • 他専門分野から,対象のニーズの充足の上で,いかに正確で,かつ必要とされる知識・技術は何かを見定められるかが今後の課題といえる.

ご清聴ありがとうございました.

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