「小児病棟のプレイルームにおける知識創造プロセスとしてのデザイン利用」
医療従事者と子どもの双方向で行われてきた知識のやり取りを,SECIプロセスに当てはめることで,共同化は医療従事者と子どもの経験共有の場,表出化は他分野との相互的な対話の場,連結化は対話することによって導き出された結果を明確にする場,内面化は実践・学習の場となる.
知識の仲介としてのデザインの役割は,経験から獲得した言語では表現しがたい知識の抽出と知識・情報と造形を結合することの2点であり,SECIプロセスにデザインを介入させることにより、医療従事者と子どもと家族の橋渡しとなるようなツールやシステムを製作することが可能になることを述べている.
第53回日本デザイン学会,口頭発表内容,[2006年6月30~7月2日,金沢]
「小児病棟のプレイルームにおける知識創造プロセスとしてのデザイン利用」
周東 淳子*, 岡崎 章** (* 群馬大学大学院社会情報学研究科)(** 拓殖大学)
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タイトル
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研究背景
まず研究背景として,医療保育士などの専門職の導入や他分野からの介入を積極的に行うところも増えてきましたが,医療現場介入は現時点では難しいというのが現状です.
しかし他分野との交流を望む声も多いということも,看護職員へのアンケート調査からも分かります.
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研究目的
多忙を極める医療現場は「暗黙知」が多くの部分を占めています. ここでの暗黙知とは,子どもとのコミュニケーションから生まれ蓄積された主観的な知識や情報のことです.
そこに「形式知」を取り入れ,知識を分かりやすくすることが,人に伝えるには重要です. 以上のことを踏まえて,研究目的は,その知識の仲介としてデザインを利用することです. ここでのデザインは,言語では表現しがたい知識の可視化と知識と造形を結合することです.
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研究目的
今までは保育・医療・心理の領域でプレイルームを支えてきましたが,創出した知識や情報を分かりやすい形にする方法としてデザインを活用しプレイルームの新たな利用価値を探ります.
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現在の小児医療
現在の小児医療は,医療技術の進歩による死亡率の低下など大幅な健康増進を遂げましたが,その一方で,少子化の影響などから財政的支援が手薄になる,子どもの心の問題の多発など多くの問題を抱えています.
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看護職の看護業務確立
また現段階では子どもと多く接する医療従事者は看護師であり,看護職の職務特性認識に関する先行研究でも,看護職の看護業務必要性を挙げています.
そのためにも積極的に業務をスリム化する必要があるのですが,現時点では半専門職の状態であり,看護業務の区分が不明瞭であることから,専門職としての本来業務の「看護」を行うのは難しい状況にあります.
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入院する子ども
また入院する子どもは,入院の際,社会学の観点から見ると,日常生活における自己イメージの剥奪・情報資源の操作による統制・移動の制限という剥奪過程をたどり,治療のための苦しい生活や自由を奪われた闘病を強いられます.
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デザイン分野との協同の必要性
よって小児医療の現場は,医療従事者・子ども双方が強いストレスを感じる場であると言えます. 医療従事者の役割分担や業務ストレスの解消のためにも,子どもの心理社会的支援の発展のためにも,デザインが介入することで,その創造性がコミュニケーション促進の役割を果たすと考えます.
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小児病棟のプレイルーム
現在の日本の小児医療は治療のみでなく心のケアを重視する傾向にあり,さまざまな取り組みがなされていますが,ここではプレイルームに着目します.
なぜなら小児病棟には必ずプレイルームがあり,プレイルームの発展は子どもにとって発達促進の役割を果たすのはもちろん,保育士を置いたプレイルームを確保することで病院側にも診療報酬上の加算措置があり,両方にメリットがあると考えるからです.
小児病棟のプレイルームは,子どもの心身の成長・発達促進を目的に遊具や絵本・行事を取り入れる,遊ぶことでストレスを軽減する,医療従事者,家族と子どもの間のコミュニケーションを図る場としての機能を果たしています.
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小児病棟のプレイルーム
病院によっても規模は様々で,病棟の一室を使用するところもあれば
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小児病棟のプレイルーム
病棟全体を遊び場として捉え,工夫しているところもあります.
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小児病棟のプレイルーム
また,小児病棟のプレイルームの構造は,子どもの病状や心理状態から得た知識や情報を基に,医療従事者が遊具・書籍・遊びを選ぶという,医療従事者間の暗黙知の共有,つまり長年の経験やカンで成り立っています.
それを形式知化,ここでは経験の蓄積・状況に依存する暗黙知を伝達しやすい形に変換することですが,現在は申し送りや看護記録にして伝えています.
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小児病棟のプレイルーム
しかし,すべての知識を言語化するのは困難です. そこでプレイルームから創出した知識利用のためにデザインの分野が介入することで,医療現場の共有のみにとどまらない知識の拡大を図ることができます.
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SECIプロセス
そしてプレイルームの拡大した知識を最大限利用するために,SECIプロセスを取り入れます.SECIプロセスとは,知識が共有化・情報化されて個人へ還元されるプロセスのことであり,暗黙知と形式知が相互に作用しながら「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」の4点を循環する構造です.
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SECIプロセス
共同化とは,直接経験から得た暗黙知を蓄え,共有し,また新たな暗黙知の創造を行うことであり,表出化は,対話から暗黙知から形式知へ翻訳を試みることです.
また連結化は,形式知を編集や統合することにより,別の形式知を創出し,内面化は,形式知を実際に行動して新たな暗黙知として理解することです.
医療従事者と子どもの双方向で行われてきた知識のやり取りを,SECIプロセスに当てはめてみると以下のように拡大します.
共同化は医療従事者と子どもの経験共有の場,表出化は他分野との相互的な対話の場,連結化は対話することによって導き出された結果を明確にする場,内面化は実践・学習の場です.
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知識の仲介としてのデザイン
知識の仲介としてのデザインの役割は,先ほども述べましたが,経験から獲得した言語では表現しがたい知識の抽出と知識・情報と造形を結合することの2点です.
このようにSECIプロセスにデザインを介入させることにより,医療従事者と子どもと家族の橋渡しとなるようなツールやシステムを製作することを可能にします.
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知識の仲介としてのデザイン
具体例はクリティカルパスのデザインです.クリティカルパスとは,プロジェクトにおいて,事実上プロジェクト全体のスケジュールを決定している作業の連なりのことを指します.
北里大学病院より子どもの保護者用と医療従事者用のクリティカルパスの提供を受け,既存のコンテンツを理解しやすくするために作成したものです.基はエクセルで作成した表でしたが,作業ごとに色分けし分かりやすくしています.
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知識の仲介としてのデザイン
また,これからの課題として,セラピューティック・プレイを支援するためのツールを考案中です.セラピューティック・プレイとは,入院生活に伴うストレス状態への対処を支援することで心的外傷を予防しようとする予防的・発達的なアプローチのことで,
①気晴らしのための遊び,
②発達支援のための遊び,
③医療体験に伴う情動的問題に焦点を合わせた遊び,
④医療計画を支援し,拡張する遊びに分類されます.
ここでは医療行為を一切行わないプレイルームで,少しでも病気のことを忘れてもらいたいという理由から,①の気晴らしのための遊びに注目したツールを考えています.
例えば,「壊す」という行為に焦点を当ててみると,悪いイメージがありますが,大人でもストレスがたまると何かを壊すことで発散することがあります.
アメリカでは医療用の手袋に粘土を入れ,握りつぶすというストレス解消の遊びがありますが,粘土が出てしまい粘土の雑菌から感染症をおこす恐れも考えられます.
また,看護師から,プレイルームの遊びでボーリングが喜ばれるという情報を聞きました.ボーリングのピンに医療従事者の写真を貼り,それをボールで倒しているそうです.(親も喜ぶ.いつも言いたいことを言えないから.)
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知識の仲介としてのデザイン
このように,ツール製作の流れとしては,先ほどのSECIプロセスに当てはめて,医療従事者の,子どものストレス軽減方法の体験を,医療従事者とデザインの対話から言語化・図像化します.
そこにデザインの形式知と融合させたツールを製作し,そのツールをプレイルームで実践し創出した暗黙知を,再び医療従事者同士で共有するプロセスをたどり,子どもが本当に必要とするツールを製作したいと考えます.
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デザイン介入効果の期待
以上のことから,デザインは,医療従事者や家族・子どものコミュニケーションの補助的役割や共同化で創出された暗黙知の可視化,そして,形式知の整理・統合することで誰でも利用しやすい情報に変換する効果を持ち,知識共有を容易にし,知識を最大限に活用することを可能にします.
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まとめ
今回の発表で,知識を分かりやすくする方法にデザインの創造性を用いることで,知識の有効利用を提案し,そこにSECIプロセスを組み込み,医療・保育・心理の領域からだけではなく,デザインの観点からプレイルームのあり方を探り,プレイルームにおいての知識創造プロセスとしてのデザインというアプローチが可能であることを述べました.
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まとめ
このデザインを日常化させるためには,病院との協力関係は必須であり,医療従事者は「子どものために」知識や情報提供し,デザイン分野は「本当に必要なもの」のために知識や情報利用することで,プレイルームが,病を治すことを最大目的にあらゆる面から寄与できるシステムを構築する場として捉えることができるのです.
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参考文献
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参考URL
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