:: 2006/07/13  05:14 ::

「チャイルドライフ・デザインの必要性と展開」

医療現場において,入院を余儀なくされた子どもたちの生活は,想像以上の悲しみと自責の念(痛いことをされるのは,自分が悪い子だからという考え)に苛まれる.現在,それらの解放は,看護師,チャイルドライフ・スペシャリストなどによる心のケアに委ねられるが,遊び道具や人形,プリパレーション(治療や手術の前にその患児の年齢にあった言葉や道具で説明し心の準備を促すこと)のツールなどを介する場合は,そのデザインの善し悪しにより効果は大きく左右される.

 

従って,子どもの入院生活のすべてに渡り, 治癒効果を高めるためには,入院という隔離された空間すべての対象物に対して, 効率性を主としたデザインの必要性が求められている.その対象物のための新しいツール開発はデザインが担わなくてはならない.本稿では,アプローチの実際について報告する.

 

なお,プリパレーションのソフト[Smile]については,「サイコロジカル・プリパレーションにおける看護師支援のためのインタフェースデザイン」として引き続き口頭発表を行うプログラムであったため,あえて入れていない.


第53回日本デザイン学会,口頭発表内容,[2006年6月30~7月2日,金沢]

「チャイルドライフ・デザインの必要性と展開」 柴田 高幸*, 岡﨑 章**, 内藤 茂幸***, 吉川 佳孝**** (* 拓殖大学大学院工学研究科工業デザイン学専攻)(** 拓殖大学工学部工業デザイン学科)(*** 北里大学病院看護部)(**** 自治医科大学附属病院看護部)

PowerPointの内容は,画面をクリックするごとに次のページを見ることができます. PowerPoint右下に表示されるページに対応した発表内容が下記文章となります.はじめから見直したい場合は,右クリックで巻き戻し,再度右クリックで再生を選んで下さい.


 

----------P1
これよりチャイルドライフデザインの必要性と展開についての発表をさせて頂きます.

 

----------P2
背景
医療現場において,入院を余儀なくされた子どもたちの生活は,想像以上の悲しみと自責の念,例えば痛いことをされるのは,自分が悪い子だからという考えに苛まれます.

それらの解放は,看護師,チャイルドライフ・スペシャリストなどによる心のケアに委ねられているのが現状です.その際,遊び道具や人形,プリパレーション(治療や手術の前にその患児の年齢にあった言葉や道具で説明し心の準備を促すこと)のツールなどを介する場合は,そのデザインの善し悪しにより効果は大きく左右されてしまいます.

従って,子どもの入院生活のすべてに渡り, 治癒効果を高めるためには,入院という隔離された空間すべての対象物に対して, 効率性を主としたデザインの必要性が求められています.

本稿では,アプローチの実際について報告します.

 

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目的
本研究は,小児医療の支援を目的としたツールの提案であり,それぞれを繋ぐシステムの構築を目的としています.
 
そのためには,入院生活がもたらすストレスや不安に子どもがうまく立ち向かえるように援助する必要性,
そして,ヘルスケア環境において,退院後に子どもが問題なく成長していくことを援助する必要性が求められます.

最終的にはこれらを網羅したデザイン開発が必要ですが,本研究では,最初のアプローチとして,デザインが関わり合う場のシステム化と,その場を繋ぐことを考慮した上で,いくつかのツールの開発を行いました.

なお本研究は,平成17年度科学研究費補助金基盤研究(B)「入院患児に対するプリパレーション・システムの構築とその効果」の1つとして進めています.

 

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プリパレーションのエリア
入院生活のすべてに関わるものが,文字通り子どもの生活の範疇に含まれるものですが,プリパレーションを考える上で,病棟を3つのエリア+1のエリアとして考え,それぞれが担う役割とそれを繋ぐシステム,つまりプリパレーション・システムを考える必要があります.

プリパレーションでは,病室と処置室ではその内容に違いがあり,プレイルームであれば,ツールを使ったプリパレーションも可能であるし,看護師や保育士やチャイルドライフスペシャリストが操作しなくても遊びから入ることのできるプリパレーション用の遊びツールを考えることができます.

それぞれのエリアで行われるプリパレーションがうまく繋がるようにシステムとしてデザインしなければなりません.


  同様に,諸々のデザイン対象物においてもそれぞれのエリアで必要とされるデザインを考えること,そしてその繋がりによって効果を増長するためのシステムまで考えることが必要となります.

病室は小児ベッドが生活するベースとなるエリアです.
病室というエリアを一つの生活システムとして捉えたデザインアプローチが必要となります.

処置室は痛みの象徴と言えるエリアです.
感性デザインとして,処置室内で視認できるものから痛みを連想させないデザインアプロ-チが必要となります.

プレイルームは 数少ない楽しむための部屋です.
飽きにくいアイデアが盛り込まれた,プリパレーションとなりうるツールがデザインアプローチの対象となります.

 

オペ室は,患児にとっても,私たちにとってもブラックボックス的なエリアです.
処置室からオペ室までのシナリオとそれに付随する諸々がデザインアプローチの対象となります.

現段階では,エリア同士の関係性を探り,システム化を図るために様々なアプローチから検証を行っています.
それでは,具体的な研究事例の紹介に移ります.

 

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1つ目の研究事例として紹介するものは,万華鏡によるディストラクション・ツールです.

患児にとって,同じ痛みに耐える時間の長さでも,注意を逸らしながら耐えることで,時間の感じ方や痛みの感じ方が異なります.

 

近年欧米では入院患児に対する簡便な疼痛緩和の方法として万華鏡を使う手法が用いられていますが,いまだディストラクション専用のツールは登場していないのが現状なのです.

 

このツールは,万華鏡に焦点をあて様々な色と形で形成された光アートによる注意転換によって,処置室での入院患児の鎮静効果と医療行為への集中や緊張の軽減により不安や痛みを緩和させて,医療行為のスムーズな進行と支援を目的としたものです.

 

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万華鏡によるディストラクション・ツールはカレイドタイプと投影タイプを制作しています.
カレイドタイプは,ウインクができる入院患児とプレイルームやベッド上での使用を想定しています.

制作した万華鏡は映像に,緊張や恐怖感の緩和・鎮静や免疫力増大の効果があるカラーを使用し,看護師がその日の入院患児の状態に合わせてカスタマイズができるようになっています.

投影タイプは 従来のタイプと違い万華鏡内で形成される映像を,手の平やドーム型スクリーンに投影して入院患児の注意転換を図ります.

 

デザインは、角のない丸みのあるデザインを採用し,処置中は片腕の動作が制限される場合が多い点と幼い子どもにウインクがうまくできない子が多いという点を考慮しました.

また病院側からの要望で,プレイルームなど部屋の天井に映して複数人で見ることができるよう天井への照射を可能にし,処置室以外のプレイルームや病室でも使用可能です.

 

----------P7
北里大学病院の協力により検証を行った結果,患児自身がカスタマイズできるツールであることが,ディストラクションとしてはより効果的であると同時に,ツールが治療中でベッド上から身動きのとれない入院患児に対しても有効な玩具になることを証明しました.

 

----------P8
2つ目の研究事例はベッドの柵を利用したクッションです.
 
子どもにとって,遊びは発達の過程で欠かせないものです.しかし,入院患児はベッドでの生活が中心となるため,生活の経験が狭くなりがちになって,患児たちの遊びは,大幅に制限されてしまいます.

 

これは無機質なベッド内で生活する入院患児にとって,不足しがちな遊びの要素と柵の保護の要素を満たした,小児科病棟で用いられる柵付ベッドで使用するクッションです.

 

そして,柵の特定の場所にぶつかる子どもに便利だったことから,肢体支持ではなく柵に対する身体保護や,沢山取り付けても柵の中の様子が分かるようにすること,遊びの要素を取り入れることを目的としました.

 

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 クッションの形状は,看護師が患児を観察する視線を遮らないように正面から見て円形にしています.

そして,感覚運動的な機能遊びと,ベッドにブロックなどのおもちゃを広げられないことから構成遊びができるように,自分で動かして楽しむ要素,触覚の違い,押すと音が出るなどの遊び的要素もとり入れています.

 

----------P10
北里大学病院の協力により検証を行った結果,遊びの要素を取り入れ,子どもの様子を見ることにも,ほぼ影響のないクッションであることが立証できました.

 

----------P11
3つ目の研究事例はストレス・コーピングのためのツールです.

コーピングとは対処を指します.

 

入院患児の身体には点滴や呼吸器など多様な器具が付属してくる場合が多く,患児はこれらの医療器具に多くのストレスを感じて引っ張ったり外そうとする行動にでる場合が多くあります.

 

このストレス・コーピングのためのツールは,抜くという行動を代替的に行うツールによって,ストレスのコーピングを他者からの支援ではなく,患児自身で対処できる環境を提供することを目的としたツールです.

 

----------P12
①感触で伝える
ゴムチューブを思い切り引っ張ることで
ベッド周りのコードを引っ張りたいという衝動の緩和を図ります

 

②音で伝える
「スポン」と音をたて、気持ちよく抜けた時の爽快感を与えることで
点滴を抜きたいという衝動の緩和図ります

 

③音と感触で伝える

「カチカチ」という機械的な音と感触を与えることで
心電図などの操作パネルをいじりたいという衝動の緩和を図ります

 

④視覚で伝える
チューブを液体が流れるイメージを与えて,自由に触ることで
点滴などのチューブをいじりたいという衝動の緩和を図ります

このように,視覚,触覚,聴覚的な刺激を与えることにより,コードやチューブを抜きたい,触りたいといったストレス性の衝動の緩和をはかっています.

 

----------P13
北里大学病院の協力により検証を行った結果,本ツールでは,「抜きたい衝動」について限定しましたが,患児によって医療器具の処置や種類が異なるため,完全とはいえず,今後の展開として,患者の処置方法とストレスの関係性についての研究を進め,改善していく必要性があることが分かりました.

 

----------P14
4つ目の研究事例は柵間移動ロボットです.

 

これは,患児のお母さんが面会に来るまでの時間を教えてくれる時計の提案です.

 

自分の意志を示すことのできる患児は,ナースコールを押し,親が来てくれる時間を聞くことがあります.

 

その際,看護師は椅子に上がって掛け時計の針を動かしてここに針が来たらお母さんは来るからね,ということを繰り返して説明しています.


看護師より,これを上手に回避できるような時計が欲しいという依頼から,この研究が始まりました.

デザインアプローチとしては,依頼内容を踏まえ,サークルベッド(柵のついた幼児用のベッド)で寝て安静にし,天井を見るしか楽しみのない患児も対象に含めて,楽しめることを条件に入れています.

 

----------P15
まず,柵を利用してお母さんが会いに来てくれる時を知らせる新しい概念を持つツールを考え,そのイメージをCGで表現しました.こちらがそのCGです.

 

これをもって ロボット工学の先生に開発の依頼をしました.その開発第1号機がこちらのムービーになります.
現在も,ケーブル類を本体に格納して単体で移動可能になるよう継続開発中です.

 

----------P16
柵間移動時の胴体保持機構 は,柵との接触によって手部が回転してばねによって手部を柵に押さえつけることで胴体を保持しています.

 

本体矩形部分には,砂時計,油時計や写真,万華鏡画像など,動きに伴って変化するもの変化しないものなどいろいろ貼り付けることによって別の表情を持たせることも可能である.

 

----------P17
4つ目の研究事例は小児腎生検用クリティカルパスのデザインです.

 

「クリティカルパス」とはプロジェクトにおいて、事実上プロジェクト全体のスケジュールを決定している作業の連なりのことを指します.

 

これらは北里大学病院小児病棟より患児の保護者用と医療者用クリティカルパスの提供を受けて,既存のコンテンツをそのまま理解しやすくするために作成したものです.

 

インタラクティブな腎生検用プリパレーションツールの開発を開発する際,デザイン側の理解のために制作したものが,看護師に見せた際に好評を得たため,プリパレーションツール開発プロセスにおける副産物として提供することができました.

 

----------P18
保護者用のクリティカルパスでは,A4横位置に並べた方が時系列としては分かりやすいのですが,文字が小さくなり,またA3用紙だと扱いにくいことから,時系列は2段縦位置としました.

 

時系列を分かりやすくするために,コンテンツ・説明との差別化を図り,保護者として最も緊張度の高い検査当日(検査・前後)は,分かりやすいように(確認しやすいように)ベースに色(グリーン)を配しています.

 

----------P19
医療者用では,A3用紙で時系列は直感的に理解できるため,保護者用のように色を配してはいません.
保護者用と同様に検査当日のみ把握しやすいように保護者用と同様,ベースに色(グリーン)を配しています.

 

----------P20
まとめ
現在,北里大学病院,自治医科大学附属病院の看護師達との共同研究としてシステム構築と必要なツールのデザイン開発を行っています.

 

今後,研究事例で紹介したツールは,残る問題点を改良した後北里大学病院小児病棟に提供しフィードバックすると供に 新たなツールの開発とそれによるシステムの構築を目指す予定です.

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