「サイコロジカル・プリパレーションにおける看護師支援のためのインタフェース・デザイン」
プリパレーションに必要なコンテンツや“声かけ”は,看護師の経験やテクニックによって変わる. 絵本などのアナログ・ツールを使用する際には避けて通れない現実である.ある程度の話し方のレベルを維持するには,現状のアナログ・ツールでは難しい.
そこで,それらをクリアーできるプリパレーション専用のツールが望まれている.
我々は,“子どもの入院生活のすべてに渡り,大人の知り得ぬ恐怖心や自責の念から解放し, 治癒効果を高めるためのデザイン”を「チャイルドライフ・デザイン」と定義して,プリパレーションを含めて展開している. 本稿では,そのツール開発について報告する.
なお,本研究は,平成17年度科学研究費補助金基盤研究(B)「入院患児に対するプリパレーション・システムの構築とその効果」の一部である.
第53回日本デザイン学会,口頭発表内容,[2006年6月30~7月2日,金沢]
「サイコロジカル・プリパレーションにおける看護師支援のためのインタフェース・デザイン」
伊藤 弘樹*, 恩田 浩司**, 岡﨑 章***, 内藤 茂幸****, 吉川 佳孝***** (* 拓殖大学)(** フリーデザイナー)(*** 拓殖大学)(**** 北里大学病院)(***** 自治医科大学付属病院)
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背景
入院患児に対するプリパレーションは,大人のインフォームドコンセント同様,必須条件です.
しかし,専用ツールは確立されておらず,看護師の手作りに委ねられています.
更に,看護師の経験やテクニックによって患児の理解度は変化します.
プリパレーションは,理解できたかという問いではなく,不安や恐怖が払拭できたかどうか,という患児の心に考慮したツールが求められています.
つまり,患児が手術が何であるかという理解ができなくても,不安・恐怖心が払拭できたとするならそれは理解と同等の効果をもたらす,そんなツールが必要と考えています.
目的
そこで,本研究では,看護師支援のためのプリパレーション用インタラクティブ・ツールの開発を行うことを目的としました.
なお,本研究は,平成17年度から3年間の科研費基盤研究(B)「入院患児に対するプリパレーション・システムの構築とその効果」として継続中の一部です.
先行研究
先行研究といたしましては,パンフレット,紙芝居形式の「うさぎくんのこつずいせんじ」など,あるいは本物の医療器具を使ったセラピューティックプレイなどがありますが,これといったスタンダード・ツールは確立されておりません.
他にもMRIの木製模型がありますが,非常に高価で浸透しているとは言えません.
マルチモーダル擬人化インタフェースなどがありますが,あくまで一般的日常動作のシミュレーション研究のものであり,プリパレーションに使用することは勿論不可能です.
研究方法・内容
そこで,プリパレーションを目的として,インタラクティブな操作が可能なツールを制作し,その効果を実験・検証し,最終的にネットから提供できるようにします.
研究内容と方法は,1から7の順に進めております.
1のプリパレーションのコンテンツ抽出は,北里大学病院と1年以上かけて行って来ました.
本発表では,2のインタラクティブ・ツールの開発のうち,インタフェースデザインについて解説を行います.
また,3,の動作解析システムによる実験についても少し触れたいと思います.
インタフェースの特徴
インタフェースの特徴は,7つあります.
先ず1つ目は,2画面混在表示です.
発券機には,子ども用大人用とありませんが,看護師と患児が同時に使用することによってプリパレーションの効果を高めるために混在表示させています.
レフトナビは,看護師が説明手順の全容を瞬時に把握できるようにし,更に,例えば点滴を入れる時に「ちっくんするよ」という声かけを併記しています.
これらは,看護師の経験やテクニックに頼らない適切な手順と適切は声かけを実施してくれます.声かけは,患児の安心感の増幅の要素として捉えています.
患児側は,レフトナビ以外になりますが,看護師も操作可能です.患児側には,3Dで制作したキャラクタがマウスオーバーで動き,感心を引きつける効果を狙っています.
なお,本ツールの対象年齢は,3歳から就学前後としています.これは,この年齢が,手術への不安や恐怖心など,自由に意思表示できない年齢であり,それをプリパレーションによって少しでも緩和してあげたいという看護師からの要望で設定しております.
2番目の特徴としましては,患児の意志決定支援ツールの要素を含んでいる点です.
例えば,インタラクティブな操作によって,患児自身が,キャラクタ・エージェントをドラッグしてストレッチャーに乗せることができれば,それはopeに向かうという意志決定の支援になるということです.
このツールは,タッチパネル式のモニターで操作できるように設計しております.
3番目には,患児・看護師・全体,つまり鳥瞰図的視点(バードビュー)の3視点切り替えができることです.
絵本などでは,「全体」の視点から描かれていますが,患児が実際に手術に行く時に見るのはその視点ではありません.
また患児の視点は,看護師から見る視点とは全く異なった視点であり,看護師に患児の視点を知ってもらいということがもう一方にあるためです.
つまり,ストレッチャーに乗って見る天井や,看護師の顔を下から見る画像は,実は意外に怖いのだということを看護師が知ることによって,もう少しここは優しく丁寧に説明しようと思って頂けること,つまり看護師教育用支援ツールとしての機能も担いたいというデザイン意図があるわけです.
4番目の特徴は,看護師らが実際に点滴場面やope室の中まで移動する子どもの視点から撮影して頂いた実写ムービーを見ることができることです.
これは,実際にどのような場面に遭遇するのか実写を持って示す用意をしておくことは必要であると考えたためです.痛みや恐怖をキャラクタで騙してはダメだという考えに配慮しています.
また,患児と同席した親御さんがどのようなものなのか見たい場合は,見てもらうことが可能です.特に患児が小さければ小さいほど親はより多くの情報が欲しいものです.
5番目の特徴は,いつも受け身ばかりの患児が医者の立場になって疑似体験ができるという点です.
骨髄穿刺にしたのは,かなりの痛みを伴う骨髄穿刺のプリパレーションが一番欲しいという要望に応えるために,患児も医者の立場で操作しながらプリパレーションを受けることができることを目指したためです.
6番目は,遊びからプリパレーションを導入しやすくするためにゲームをコンテンツの1つとして含んでいることです.
最初からプリパレーションの行為に入るのではなくて,コンテンツの1つ隣りにあるゲームをしてそのままプリパレーションに入ることは,とぎれることのない導入のしやすさに繋がると考えています.
7番目の特徴は,看護師や患児が操作したログを自動的に取得できる点です.
どのボタンを押して何秒後にどのボタンを押したかなどを定量的に見ることができます.
これによって,どの説明にどのくらいの時間をかけたのか,あるいは手順通り説明した後に,どこに戻って再度説明をしたのかなどを操作者が意識することなく知ることができます.
アンケートなどの定性的な評価に加えて動作解析システムの定量的評価とこのログを比較分析することによってより,更に良いインタフェースデザインを行うためです.
インタフェースデザイン
では,実際のインタフェースであるSmile操作致します.
(実際の操作に従って説明.ここでは,数点のみを記載)
画面の左下のキャラクタ部分をクリックすると3視点が次々と切り替わります.
これは,一般的なバードビューです.
(以下,ナビ部分を割愛したキャラクタ部分のみの表示)
クリックすると視点が切り替わります.
これは,看護師の視点です.
もう一度クリックすると患児の視点に切り替わります.
これは分かりやすく,あえて足側から押している時の患児からの視点にしてあります.
次は,ope室に入る場面です.
先ずこれが普通の視点(バードビュー)です.
次は,看護師の視点です.
そしてこれが,患児の視点です.
opeを受けた経験のある方なら,この視点から見たこの画面に恐怖を感じる人がいらっしゃると思います.
先ほど述べましたが,この視点切り替えは,患児への内容理解もさることながら看護師が患児の視点を知ることによる心の変化を促すこと,つまり例えば,プリパレーションをもっと優しく丁寧に説明しなくてはと気づいてくれることを,そして実践してもらえることを願っているわけです.
(中略)
実写ムービーも必要に応じて見ることができます.
レフトナビにある[移動]の右の[→Movie]をクリックするとこのように実写を見ることができます.
これは,患児に対するためのものではなく,患児の親に対する情報提供として必要であると考えています.
(中略)・・・その他,一通り特徴を操作にあわせて説明
Smileを 終了すると,同階層にPrefsフォルダが自動で作成され,その中にログデータが自動的に作成されます.
実験内容・手順
Smileも絵本も同じ3Dを使用して制作しています.
また,女性の看護師を見て頂ければ分かると思いますが,キャラクタは実際の看護師に似せて制作しております.その他にも病室,壁紙,廊下まで実際に似せて制作しています.
現在,北里大学病院にて倫理委員会を経た上で動作解析システムを使って絵本とインタラクティブ・ツール[Smile]の比較実験を行っております.
(実験シチュエーションを操作)
実験している部屋には我々は入ることはできませんので,グレー文字の部分の評価等については,すべて看護師側に委ねております.
実験・分析
この実験は,北里大学病院にて実施中です.本稿提出時はまだ4名でしたが,現在14名実施しており,解析中です.
分析画像です.
両目の位置,両肩,両肘,両手首がXYZ軸上でどんな角度でどんな速度をもってどのように動いたかを数値データとして取得できます.
絵本を使った動作解析の画像です.
今後の展開
今後の展開としましては,動作解析システム,アイマークレコーダ,アンケート,操作ログデータ,患児の回答から理解度チェック,母親が児の理解度をスケールⅠ~Ⅵで評価,母親から見た興味の程度(VAS値),との比較分析をもって本ツール検証を行います.
検証後は,ネットから自由にダウンロードして使用できるようにする予定です.
返して頂いたログデータやアンケートを元にバージョンアップを考えております.
関連ツールとして,患児の保護者用の腎生検と心臓カテーテルのプリパレーション・ツールを制作しておりますので,実験検証後,同様に提供する予定です.
参考文献
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