:: 2006/07/20  03:46 ::

「薬の識別しやすい標示方法の提案」

近年,医療は急速に発展を遂げているが,医療現場ではトラブルが後を絶たない.医療現場でのトラブル事例に関する文献[注1]などから,改善部分を考察し,提案を行う.

医療現場の与薬の一連のプロセスに関与するのは,主に医師・薬剤師・看護師である.病棟では,医薬品による治療が中心的な治療方法であり,臨床において与薬の回数は多く,与薬ミスが起こる確率は高い.しかし,ヒヤリ・ハット防止,医療事故防止をするための医療器具や医療従事者を対象とした研究[注2]は数多くあるが,薬自体の識別に関する研究は少ない.そこで,本研究では,医療現場の中で最も身近にある薬を取り上げる.

薬には飲む,注射する(体内に直接注入する),皮膚に塗る,吸入する等,様々な処方法がある.また,使い方や効能する部位,持続する時間によって,体内での吸収の度合いを調節するフィルムコーティング等の表面処理,多層化等の工夫がこらされている.しかし,今日の錠剤は各製薬会社が独自に製造し,視覚的要素(形状,色,包装の表示等)に規格の統一がみられない.そのため,薬自体と薬の包装だけでは,薬効などの情報が認識しづらい.よって,医薬品を扱う現場で類似品の出し間違い等のトラブルが発生している.

そこで,誤与薬の防止を目的として,視覚的区別がしにくい錠剤やカプセル剤に,統一の標示をもたせ識別しやすくすることを目的とする.


第53回日本デザイン学会,口頭発表内容,[2006年6月30~7月2日,金沢]

「薬の識別しやすい標示方法の提案」

河野 真哉*, 高山 かなこ**, 岡﨑 章**, 木嶋 彰** (* 拓殖大学大学院)(** 拓殖大学)

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当発表は薬の識別しやすい表示方法の提案ということで,日常によく見かけるや,使用することの多い,医療の一つとして薬を取り上げた研究からの提案を発表させていただきます.

これは,日常でさまざまな薬を目にされると思いますが,多くの製薬会社が独自の規格において薬を製造しています,それによって類似した薬も多く,医療機関では薬の与薬ミスといった医療事故がおきています.

それらの現状を調査し,与薬ミス軽減の為に薬の規格とした表示法を提案するまでの流れで発表させていただきます.

目次

これが,当発表の目次となります.
現状の調査として,先行研究,与薬ミス,薬について.現状調査を基にした表示法の提案の順で発表を進めたいと思います.

研究の背景と目的

研究の背景としまして先ほど申し上げたように,今日の錠剤は,各製造会社がそれぞれ独自に製造していて,形,色,包装に統一がなく規格がみられません.

よって,薬の効能など薬の情報が認識しづらいことから医薬品を扱う現場でのトラブルが発生しています.

そこで本研究では,一見同じように見える錠剤やカプセル剤に統一した標示をもたせ,識別しやすくすることを目的としました.

投薬ミスについて

注射や与薬ミスを防ぐための薬剤管理システム
新井万里子 島田慈彦 小児看護,25(5):551-557,2002.
与薬にいたる過程を半自動化することで与薬ミスを防ぐ.
調剤過誤の要因となるものには,医薬品の外観や類似といった物的要素と人的要素に分けることができる
類似性には視覚的類似性と聴覚的類似性がある.

与薬ミスの原因分析 -はっとした出来事報告書の調査から-
藤本圭子 西原幸子 北岡加寿美 第32回 看護教育 2001年,110-112
与薬ミスの直接的原因は当事者の不注意で起こっている
その背景に与薬システム上の問題があることが示唆されると述べている.

梶谷久美 : 与薬ミスを防ぐために -携帯端末をしようした与薬業務-,
看護技術,48(1),102-107,2002
電子カルテシステムにおいても,手順を踏まなかったことによるエラーがある.
電子カルテによって紙カルテよりも安全な業務環境を提供できるが,実際の行為は人間が行っているため, 与薬業務において,ヒヤリハット事例が皆無とは言い切れない.

初めに医療現場における与薬ミスについて現状調査をしました.

この図は与薬業務一連の流れです.医師の処方から,薬剤師の調剤,配薬,看護師の与薬から患者の服薬となります.
この図は一見,与薬によって患者が疾病を起こすように誤解が生じますが,患者の疾病に対しての医療行為のプロセスです.

プロセスの最初,医師の段階で起こるミスの要因を説明します.まず医師から薬剤師,看護師への指示や伝達ミス.次に患者への確認ミスがあげられます.

次に薬剤師によるミスの要因には,医師と同じ伝達ミス,新しく開発された新薬への知識不足による対応ミスなどがあります.

看護師による配薬・与薬は一番ミスが多い段階です.
この段階の要因のほとんどがヒューマンエラーといわれ,思い込み,勘違い,記憶違いなどがあげられます.

ここまでミスがなくても患者による飲み忘れや使用方法の間違いから,患者による自己ミスもあります.

医療側における要因は,大きく確認ミスと考えられます.

ヒヤリ・ハット事例

このグラフは,厚生労働省医療安全対策ネットワーク事業より,ヒヤリハット事例の要因別件数の数値を調査して,グラフにしたものです.
ヒヤリハットとは, 与薬ミスをして“ヒヤリ”“ハッと”することからヒヤリハットと言われています.
これには,投与される前に気づいた場合でも含まれます.

このグラフからは,名称類似,規格違い,勘違いの3つの要因の数値が多いことがわかります.

以上の現状から,確認不足の改善が必要と考えられます.
そこで,識別しやすい統一性を持たせること,また,文字の可読性を高めることが必要と考えました.

薬の種類について

続いて,薬について調査をしました.

 錠剤は通常,薬効成分の量が少ない,そのままでは形になりにくいなどの理由から,適当な添加剤を混ぜて成型されています.
製法による種類は5つの種類がありますが,本研究では,大きくコーティングのあるなしの2つの分類で利用します.
一方,カプセル剤は大きく2つに分類できます.

薬の形状について

次に形状です.大きさはおおむね200mg~500mg.直径8~15mmほどのものが多いです.
形は,写真のような丸い形が一般的で,丸い形は飲みやすいということから多いと考えられます.
また使用方法,効能部位,持続時間によって変わってくることがわかりました.

色は,錠剤,カプセル剤両方とも,大半は安心感をもたせるために,白や淡い色にしていることがわかりました.色は識別のためにつけられていますが,色別に意味はもっていませんでした.

国外では,リンゴ型だったりミミズ色など日本じゃ抵抗のある色も使われています.

薬の表示について

次に錠剤,カプセルの表示について調査しました.
素錠のように表面がコーティングされていないものは刻印.
コーティングされている錠剤は印刷によって表示しています.

主に,識別記号や規格が表示されています.

薬の包装について

錠剤,カプセル剤の包装で最も多いのが通称PTP包装,プレス・スルー・パッケージで,
現在PTP包装は包装の全体の約9割を占めています.

 PTP包装の誤飲として,薬を取り出さず,台紙ごと飲んだために食道を傷つけ重症にいたった例が報告されています.
これを防止する目的で最近はミシン目が2錠単位でつけているものが増えています.

今日では,左下の写真のように,切り離しても1つの包装を大きくしている包装もあります.
この包装は標示方法も含め,全ての薬に使用すべき理想の形だと考えられます.

薬の分類

標示方法として効果的に識別するために,薬を効能別に分類しました.この研究では薬の分類が大きな意味を持っています.
まず,頭,心臓,胃など体の部位でわけるものなのか,病気別にわけるものなのかと考えた結果,参考文献として医者からもらった薬がわかる本2006年版を選び,その文献を基に分類しました.

大分類は17個に分け,縦文字が大分類で,その中の分類として横文字の中分類です.

さらに成分によっての分類,小分類に続きます.

大分類,中分類記号の選出

その分類から,分類の数にあわせて記号の選出をしました.
一般用として,大分類に色,中分類に形状を設定しました.
大分類は横の列に見て,それぞれに1色,痛みと熱の薬なら赤,胃の薬なら青など,色別に効能がわかれています.
そして,中分類表示として形状の違いを利用しました.
中抜きの赤丸は解熱鎮痛薬,赤の四角は抗リウマチ薬,のようにです.

こちらが小児用として,記号を大分類の一つだけとし,大分類を果物の形状を利用して表記します.
これは子供でも薬を識別できると考えました.
効能までは理解できないと思いますが,熱のときはリンゴ.吐き気とか胃が悪いときにはメロンなど.と認識できます.
子供が学校や親の目が届かないところで服用する場合でも,“ご飯食べた後にリンゴの薬1つ飲んでね”などと,伝えることができると考えられます.

識別記号の選出

色弱の人でも識別を可能とするために,マークの他に文字記号もプラスします.
アルファベットは文字として利用するのではなく,記号として表示するので,かたちで選び,iとLなど区別が付かないものは除きました.
表示方法のサンプルとして,ゴシック体,明朝体,組み合わせたものの表示を制作しましたのでご覧ください.

識別コード

これが識別コードです.
大分類,中分類,小分類の順番に標示し,小分類の中で分かれるものに識別番号として,数字を加えました.
1つの薬に1つの識別コードをもつため,記号をたどっていけば,なんの薬か認識できます.
新しく薬が増えた場合でも,記号を増やしていけば対応できると考えられます.

また,患者側として知りたい情報は中分類までと考え,コードとしての識別は難しくはないと考えます.
また,薬を包装からだした状態でも薬自体に表記があるので,識別コードの記号一覧表があれば,何の薬かをたどることができます.

表示方法

実際の表示方法について説明します.
調査によって,錠剤は着色することが可能とわかり,当初は,錠剤自体に色をつけて視覚的区別をもたせようと考えました.
しかし,タール系色素の発がん性が問題となったことから,近年では無着色の白い錠剤が増えているもことがわかりました.

よって,発がん性あるない関係なく,着色する部分を極力少なくなるよう考えました.

そしてこれが本研究の提案する標示方法です.
包装から見える面は医療関係者の確認の要素として表示するため,識別マーク,識別コード,規格を標示しています.
裏面は,包装からだした時に患者側にみやすいように考え,大分類と中分類だけを大きく標示します.
患者,または一家に1つ,記号一覧表を渡し,包装から出した後でも,記号を照らし合わせることによって確認できるようにします.

素錠など刻印の場合には,色彩がないため,マークをなくし,識別コードを全体的に大きく標示し,
また裏面はマークと同じ意味をもつ大分類中分類の文字記号を表示しました.

カプセルはコーティング錠と同じように印刷で表示します.

表示方法 サンプル

こちらが先ほどまわしたサンプルの写真です.
このように,今回提案する表示法では薬の区別が視覚的につきやすくなっています.

提案の考察

では,提案の考察です.
この提案によって次のメリットがあげられます.
表示方法を改善することで,一連の与薬業務において薬の識別でのヒューマンエラーを軽減できることです.

1番のメリットは,包装から出した後でも薬の情報が確認できる点です.
従来のものは,包装から出してしまうと何の薬かわからなくなってしまうことがありましたが,私の提案した標示方法では,錠剤自体に効能や薬の情報が標示されているので,包装からだしても,飲む直前まで薬効の認識ができます.

医療側として,錠剤に標示したことによって確認要素が増えます.
統一された標示なので,一見類似になりますが,逆に類似になることで注意点が統一化され,個々の注意力が高まると考えました.
よって,確認不十分の改善になると考えられます.
また,錠剤,包装全ての標示を変えてしまうと,今までの識別要素がなくなってしまうことから,包装は従来と同じにし,識別要素を残しました.
この標示方法が統一されれば,錠剤以外の医薬品の標示,たとえば,点滴やシロップ薬のボトルにも使用できると考えられます.

今後の課題として,医薬品は実験が困難であり,提案した標示方法の実際の有用性について証明ができていません.今後,実験方法を検討し,有用性について実証する必要があると考えます.

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