:: 2009/06/27  14:49 ::

「CVカテーテル用パレーション・ツール“KIZUNA”の開発」

第3回キッズデザイン賞受賞ツールである.2010年7月プログラム他全面Verアップした.

"KIZUNA"の無料ダウンロードについて

日本デザイン学会,口頭発表,[2009年6月27日,名古屋市立大学]

拓殖大学大学院 山中洋雄, 拓殖大学工学部 岡崎 章, 静岡県立こども病院 加藤由香, 北里大学病院 内藤茂幸

画面内をクリックするとスライドが移動します.ページに飛びたい場合は下3つ並びの真ん中のアイコンで操作して下さい.

CVカテーテル用のプレパレーション・ツール「KIZUNA」の開発です.
それではまず,プレパレーションとCVカテーテルについて説明いたします.

プレパレーションとは

まずプレパレーションですが,プレパレーションとは「治療や手術を受ける前に、その子どもの年齢にあった言葉や道具を使って説明し、理解してもらい心の準備を促すこと」です.
このプレパレーションには非常に専門的な知識が必要になるため、通常は「チャイルドライフスペシャリスト」や「プレイスペシャリスト」などの専門の職に就いた者が行います.

CVカテーテルとは

続いてCVカテーテルについて説明いたします. CVカテーテルは医療器具の一種で,「中心静脈カテーテル」の略称です.
これを用いることにより,通常の点滴では投与することが困難な薬剤や高カロリーの輸液を,長期間,安定的に点滴することができます.

CVカテーテルを使用するためには,管の先を心臓付近の太い血管「上大静脈」に挿入する手術が必要となります.
今回はこの手術を行う患児に対するプレパレーションを行うためのツールを開発しました.

研究の目的

この研究の目的はふたつです.
まず背景に,プレパレーションを専門とする職種の有資格者が国内では少なく,それらの専門職に就くものがいない場合,プレパレーションを行う者の知識や経験によってその内容が左右されるという現状があります.
そこでひとつめの目的として,「プレパレーションを行う者の知識や経験に左右されずに子どもに適したプレパレーションが実行できること」が挙げられます.

次にふたつ目の目的です.今こちらに注射をしている写真が表示されていますが、このような肉体的な痛みを連想させる写真を見ると,実際には痛くなくても「痛い」と感じる脳の活動を群馬大学大学院医学系研究科が発見しました.
これは視覚的な要素から,脳が痛覚を反応させる働きによるものです.
このような脳の働きは,医療者が患者に説明を行う際に問題になります.
例えば注射の説明をする場合,イラストよりも実際の写真のほうがより真実を伝えることができます.

しかしその場合,患者は痛みを伴うことになり,これが子どもの場合,恐怖心を生んだり,トラウマにすらなりかねません.
かと言って,注射の痛みをまるっきり感じさせない説明をしてしまうと,患者は実際の注射の際に事前に予想していなかった痛みを伴うことになり,医療者への不信感を抱く可能性がでてきます.
よって,患者の年齢や性格に応じて「適度な痛み」を伴う説明を行うことが必要となります.
そこで「痛みをデザイン要素によってコントロールできること」を二つ目の目的とし,それを可能にするために「デザイン要素によって痛みをコントロールできる機能」を実装することを決定しました.

ツールの提案

では実際のツールの提案について見ていきます. こちらは最初に完成した「kizunaバージョン1.0」です.
インタフェースについては,子どもにとって理解しやすいといわれている絵本・漫画などの情報メディアの利点を考慮してデザインしています.

今回のツールは,「プレパレーションを行う者の知識や経験に左右されずに子どもに適したプレパレーションが実行できること」という目的がありました.
そこで,子どもの理解を適切に促す手段として,本ツールは「画面の絵と文字を見る際の視線移動を適切に促す機能」を実装しました.

このように,コマ内の絵は最初モノクロの線画で表示されており,コマをクリックするとフキダシの出現とともに絵の重要な箇所のみがカラー表示されます.
この「フキダシ」と「線画からカラーへの変化」により,「絵の重要箇所への視線の停留」と「スムーズな視線移動」を促します.

ツールそのもので患児の視線移動を適切に促せることにより,誰がツールを用いても患児に一定の理解を与えることができます.

検証

ツールの開発において,北里大学病院で検証を行いました.
対象はCVカテーテルに関する知識がまったく無い入院中の9歳男児です.
検証は,このツールの内容である「CVカテーテルの形状や用途」,「手術までの流れ」,「CVカテーテル挿入後の日常生活」を確認するものとしました。

プレパレーションを行った後に「CVカテーテルについてわかったかな?」,「手術するまでに何をするのかな?」,「手術の後の生活はどうなるのかな?」という質問をし, 患児が肯定した場合はその内容について聞き取り調査を行い,本当に内容を理解しているのかを調査しました.

その結果,CVカテーテルに関する知識がまったく無かった男児が,ツール使用後にCVカテーテルに関する簡単な質問に対して,スムーズに回答しました.
また,看護師との意見交換により,9歳男児が過度な恐怖感を持つことなく内容を理解できたことが確認されました.
これらの結果により,本研究の目的の効果が確認できました.

その結果,CVカテーテルに関する知識がまったく無かった男児が,ツール使用後にCVカテーテルに関する簡単な質問に対して,スムーズに回答しました.
また,看護師との意見交換により,9歳男児が過度な恐怖感を持つことなく内容を理解できたことが確認されました.
これらの結果により,本研究の目的の効果が確認できました.

その後,静岡県立こども病院においてプレ運用を開始しました.
そして,実際にツールを使用したことによって感じた評価できる点・改善して欲しい点等を挙げてもらい,それらを元にツールの改善を行いました.

こちらが,評価された点と改善してほしい点・要望案を一覧にまとめたものです.
評価された点としては, 「絵がとてもかわいくて親しみやすい」というキャラクターデザインにおける評価と 「実写版との比較はわかりやすい」という機能に対する評価, そして「マウスを動かすとコマが大きくなるのはわかりやすい」というインタフェースデザインに対する評価がありました.

逆に改善して欲しい点として挙げられたのは 「重要個所のカラー部分が薄く,変化がわかりにくい」, 「女の子視点でのプレパレーションしかないので,男女どちらでもできるようにして欲しい」, 「子どもが自ら意思表示ができるような余地がない」, 「ツールを使用する取っ掛かりとなるようなゲームを追加してほしい」, といった点でした.

ツールの改善

これらを踏まえた上で,ツールの改善を行いました.

まず,「カラー部分が薄い」という評価から,重要個所におけるカラー表示を濃い色に変更しました.
これによって,視線の停留の効果をより高めることができます.

次に,「男女が選べない」という評価から,男女どちらの視点でもプレパレーションが行えるようにしました.
これにより,患児が男女どちらであっても感情移入しやすくなり,効果的なプレパレーションが可能となります.

次に,「子どもが選択する余地がない」という評価から,子どもの意思表示機能を追加しました.
各コンテンツの最後に,指南役キャラクターが「おふろのときどうすればいいのかわかったかな?」などの問いかけを行い, 患児がそれに答えることによってコンテンツを締めくくります.

P17 最後に,「ツールを使用する取っ掛かりとなるようなゲームを追加してほしい」という要望から,ゲームを追加しました.
現在は雑草を抜くゲームを実装しています.
今後はプレパレーションの内容に関連するゲームなどを実装していく予定です.

(CVカテーテル用プレパレーション・ツール“KIZUNA”を操作して見せる)
それでは改善された実際ツールを実際に操作してみます.

まず,男女選択画面が表示されます.
これは先ほど挙げられた要望を反映したものです.
次に男女のいずれかを選ぶと,左側に「CVカテーテルとは何か」,「日常生活はどうなるのか」などのコンテンツ,右に選んだコンテンツの内容が表示されます.
表示されたページは,ひと目でそのコンテンツの全体がわかるようコマ割によって配置しています.

これらのシナリオには,静岡県立こども病院の協力により,実際にCVカテーテルによる治療を行った患児が持った不満や疑問を調査した内容を反映しています.
また,シナリオ化の際,子どもに誤解を与えるような表現を使わないよう,看護師などの医療関係者から意見を頂き,それらをもとに適切な表現で各セリフを作成しています.
さて,このツールのもうひとつの目的は子どもが感じる痛みをデザイン要素によってコントロールできることでした.

そこでこのツールでは,とくに痛みを感じる可能性がある場面ではリアルさの異なる5つの絵の中からひとつを選択できる機能を持たせました. 例えば先ほどお見せしたCVカテーテル挿入モデルがそうです.
プレパレーションを行う医師や保護者は,子どもの成長度合いや性格に合わせて5つの絵の中からひとつを選択することで,子どもの感じる痛みをコントロールし,より効果的なプレパレーションを行うことが可能となります.

今後の展開

さて今後の展開ですが,先程説明した「画像選択機能」について追加の実験を行う予定です. プレパレーションを行う際,事前に患児にとって適切な画像を選択できるようにすることで,スムーズにプレパレーションを行うことができると予想されます.

そこで,「画面提示する医療処置器具の画像のデザイン構成要素」と「患児の恐怖感・不安感」との関係性を明らかにする実験を行います.

現在明らかにされていることは,写真というリアルな画像を見ると,痛みを伴うということです.
そこで,この写真にどのようなデザイン要素を加えると痛みが和らぐのか,また感じる痛みがなくなるデザイン要素は何かを明らかにし, その実験結果を「画像選択機能」に反映します.

今回の実験で付加するデザイン要素は,輪郭線・陰影です.
輪郭線の線幅の変化と陰影の濃淡の変化によって,人が感じる痛みがどう変わるのかを調査します.

実験にはプリミティブな形状を用いる予定です.
なぜプリミティブな形状を用いるのかと言うと,いずれの医療器具や処置具でも応用できるように基礎データを得るためです.
基礎データが得られた時点で,そのデータをもとに「画像選択機能」を改良し,ツールに実装する予定です.

ご静聴ありがとうございました.

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